シロカン

うとうと
うとうと


今日も心地良い疲労感と睡魔に、意識も肉体もふわふわとまるで水面を漂っているかのような覚束ない感覚が身体を包む。
たっぷりと稽古や鍛練をし終えた日はこうやって充実した気持ちで抗えない眠りに身を任せずるずると堕ちていくのだが、今日に限ってはそれを全力で拒否して己を叱咤させる。
泥のような眠りも、誘惑する気持ち良い床も、今ばかりは見ないふり。

何故なら今日は久しぶりに関羽が帰ってきたからだ。



２ヶ月ほど前に孔明の命で周倉と共に遠方へと出ていたのだが、それか漸く一段落ついたらしい。
尤も、それも日が暮れてからの話で、帰ってきてからも孔明と話したりやることがあったりと久々だというのに忙しく立ち回っているから、結局声を掛けれたのが深夜の周倉と呑んでいる席になってからだった。

おお久しぶりだな関平、なんて声を聞きながら会話がしたいなぁと溢れる欠伸をかみ殺してみるが、意識はずるずると闇へ闇へ堕ちていく。

「おうおう、関平はおねむか？」

ふと聞こえたそんな言葉に、いつの間にやらうっかり舟を漕いでいた事に気付く。
あぁ眠りたくない勿体ない折角会いたかったのにでも心地良いなぁいや駄目だ寝ないぞ絶対ぜったいに。

意識がせめぎあい、聞こえる会話もなんだか飛び飛びだ。

「こら関平、寝るなら自分の部屋の床に行かないか」
「…ねむくなんかないよ」
「嘘を吐け、ほら」
「ねむくない。ねないねむくないからここにいる」

まるで駄々っ子みたいにいやいやをして隣に居座る。
今日ばかりはこの睡魔も疎ましい。

「やれやれ…」
「好かれてるな、大将」

おっちゃんの溜息とそういって呵々と笑う周倉の声が聞こえる。少しだけムッときたけど顔を向けるのも億劫でずり下がる瞼を維持するのに精一杯だ。
それ以上に寝てしまうなんて勿体ない事はやっぱり出来なかった。


おっちゃんが戻ってきたのは本当にほんとうに久しぶりなんだ。
だから聞きたい事も言いたい事もいっぱいいっぱいあって、ぐるぐる頭の中を駆け回ってはどれから言おうかと迷っている。


「オイラ、おっちゃんに、話ある…ききたくて、いっぱい…」



ちょっとは腕が上がったよ。

組み手をしてもらいたいんだ。

ああ、あの型がいまいちわからなかったから教えてもらわなきゃ。

どんなところに行ってきた？

身体は大丈夫？

なぁ、どうだった？


あのね、


ね。





言いたい事はぼそぼそと消え、力が抜けて何か温かいものに顔面から寄り掛かる感覚。
何処か懐かしい匂いがする。
これ、おいらはしってる。


「関平」


ぽんぽんと大きな掌が背中を叩き、頭をやわく撫でられる。
ああ、この温かい掌が大好きなんだ。
久しぶりだなぁ。

「明日、全て聞こう。だから、今日はおやすみ」
「…うん…」


囁くような優しく低い音色に意識がゆるりと思考の手を離してゆく。

温かな体温と懐かしい匂いが、意識の中に沈んでいった。
 





寝落ち、っていうのは結構好きです。
だってキレイにオチてるもの！！（そこか）

[0回]