シロカン

ひとめみたしゅんかん、いきをわすれた。



偶然立ち寄った店で、アーサー殿から頼まれていたものを思い出しながらぽつんと一人いた店員に頼む。少々お待ち下さいと言って奥へと消えた店員は、入った時に聞こえた声からして恐らく女性だったような気がする。
それもこれも、はて財布は何処だったかと懐を探りながら次はどうするだのあれもいるだのとつらつら思い出しながらの事で、まわりなどまともに意識して見ていないのだ。


「お待たせ致しました」

少しして聞こえてきたにこやかな店員の女性の声に、金貨を出しつつ有難うと言って顔を上げ、まともに顔をみたその瞬間。
まさに弓矢で胸を射られた音がした。

ひゅっと自分の吸い込んだ息が聞こえ、全身が動かなくなり息が止まって死ぬかと錯覚するような苦しさとその中から溢れるように沸き上がるこの感情は歓喜だろうかなんだろうか。ああ、これをなんと呼べばいいのだろう。


そうだ知っている。
これは恋だ。

ただ、恋は恋なのだが恋と名を付けるには余りに言葉がちっぽけで感情が激しすぎるような気がする。
まさに一目惚れと言うに相応しいそれで、ばくばくと身体中の血が駆け巡り熱くて仕方ない。
それは今までに経験したことのない感覚だった。

別に恋愛経験が無いわけではない。
どちらかというと得意な方ではなかったが、それでも今までに恋人と呼べる女性と恋愛もしたしそれ以外にも数々の女性と夜を共にはしてきた。
が、それも過去の話で今の段階では興味など沸かなかったし、そもそも自分は一目惚れなどあるものかと信じなかったのだ。

だが今まさにそれが打ち砕かれた。
あまり信じない運命という二文字が浮かび上がり、自分が自分でないような感覚が全身を麻痺させて、ありえないありえないと頭のどこかでしつこく声が響く。
それでもぐらぐらなる思考を押し退け本能が勝手に自身を突き動かす。


震える声で、それでもするりと滑り落ちるように、不思議そうに首を傾げる目の前の女性に無意識に自分はこう言っていた。



『　貴女の　お名前を　』
 




‐‐‐

このあと慌てて自分の名前を名乗るよ！
もう、親父さんの一目惚れならいいのに。

あ、表現は弓矢で譲れません。
電撃、とか、炎上、じゃなくて、一本の矢が個人的なポイントで。
一撃必殺。一点集中。まさしく運命。
そんな感じで是非とも胸を突き刺して頂きたい。（笑）

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