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幸福讃歌
気付けばGWとかいう時期になっていてびっくりしまし、あ、石投げないでッ…!
今更こっそり舞い戻ってきてみる。
ずっと不在の間も拍手ぽち有難うございました!
あ、そういえば拍手ですが、記事にでも横のぱちぱちでもどちらでも構いませんです。
ぱちぱちにはずっと置いてあるSDGFの小説があるだけですので。。。
ところで、私事なのですがこのGWは姉が漸く部屋を片付けにきまして、ついでに模様替えという名の大掃除のようなものをずっとしていました。
そこで机が二台できたので座卓をパソコン専用として、作業机ができました。
もともと机が狭かったので、これでパソコンの罠にハマッて絵を書かないというのが無くなる!
(片付けるの面倒、とか、点けたら終わり的な意味合いで。)
とか思ったのですが、最近本当にペン握ってなくてですね…。何ヶ月ぐらい。
絵の書き方忘れた…。暫くリハビリの日々だという現実…。(吃驚だわ!)
そんなわけで、今回は文字にしてみました。
だいぶ前に筋だけ描いてて、展開が進まなかったものをちまちま書いてみた。
折りたたみに、相変わらずの親父さん話です。
愛は覚めていません。(`・ω・´)キリッ!
それよりも僧正への偏った愛情みたいなものが最近出てきたんですが、ダギの罠でしょうか。
(しらんがな)
ついに夢にも出てこられたのですが、それはまた後日。
ただいま、と
おかえり、と。
そんなやり取りの幸福さは。
「――フォーミュラ殿、そろそろ上がったら如何ですか?」
不意にプラチナからそう言われ、フォーミュラが手元の書面から顔を上げて時計を見れば、最初に帰ろうと思っていた時刻をゆうに越えていた。
「あぁ……これが終われば…」
「そう言って終わらんのじゃろが。また城に泊まる羽目になって皇Ⅱ世や風騎士にどやされる前に帰った方が身の為だぞ」
先を読んだかのような僧正にばっさりと突っ込まれ、ぐぅと唸ったフォーミュラは明日の予定でも思い出しているのかそのまま何か思案するように静止して、遂には観念したように息を吐くと漸くペンから手を離し渋々帰り支度をし始めた。
そんな様子にプラチナと僧正が苦笑気味に眺める。
その何度目になるのか忘れたやり取りは、今も昔も変わらないような既視感を連れてくる。
「……皆のように城に寝泊まりのほうがいっそ楽なんだがな…」
「それは贅沢ですよ、フォーミュラ」
「まぁ三つ子にすら愛想尽かされて帰る先が無くなったなら話は別だがな。連泊更新する前にさっさと帰らんかこのワーカホリックめ」
くっくっと笑いながら背中に辛辣な一撃を浴びせられ、極めつけはしっしと手を振られてしまえばぐうの音も出ない。
きっと明日も追われるであろう書類の束に後ろ髪を引かれつつ、重い足取りで執務室の扉を開くと、お先に、と言ってフォーミュラは城を出た。
先の大戦が終わり、ザビロニアから新しい体制になり今だ忙しい日々が続くにもかかわらず、フォーミュラは仕事が終われば頻繁に自宅へと帰されていた。(尤も、現状では週に半々かそれ以上ぐらいのペースで城に寝泊まりはしているが)
いわく、折角帰る家が近くにあるのだし、というメンバーの至極もっともな理由からである。
まぁ、そうなのだ。
驚くべき事にフォーミュラ一家の帰る家は実在していたのだ。
妻に先立たれて以来、フォーミュラ自身大戦前から既に家にあまり近寄らない日々が多く、数えてみれば実質8年近く不在で無人だったのにも関わらず帰ってみれば奇跡的に家が残っていた。
しかもそのままのカタチで、だ。
帰った初日に近所の老夫婦はよくお帰りになりましたと涙ぐんで手を握り、しかも御不在中に風通しだけはしておきましたと言った部屋の中は無人に朽ちる事なく記憶していたとおりに存在していたことに心底驚いたものだ。
尤もこれは偏に亡き妻のご近所付き合いと人望の厚さという、結婚してからというものこつこつと長年を費やして出来た努力の賜物である。
そもそも大戦前にフォーミュラが不在中近所に鍵を預けては二つ返事で留守を預かってくれたのが良い例だったのだ!
「……思えば、結局誰かしらに面倒ばかりかけているな、俺は…」
道すがら、ぽつりと独りごちて己の無責任さと不甲斐なさに軽く自己嫌悪に陥った。
反省も後悔もするが、そこで立ち止まる事は決してしない。それはフォーミュラが心に決めている事である。
なので、終わったことを何時までもズルズルと引きずる訳ではないのだが、流石に今までやってきたことが目の前に突き付けられて再確認するとなると後悔するのは致し方ない事だ。と、思う。
晩秋のすっかり陽が落ちて明かりが灯った街中には、何処かから漂う夕餉の匂いや子供の笑い声、家族の声が聞こえてくる。
家路へと向かう自分と冷たい夜風に混じって漂う温かな空気に、あぁあの頃と変わらないなと思い空を見上げた。
妻が亡くなった後、この雰囲気が酷く嫌だった。
辺りの雰囲気とは裏腹に門を潜るときの寒々しさは形容しがたいほどで、だからこそ長兄が出て行ったあの時から家に帰らなくなったのだ。
尤も、今でも家に帰ることが億劫でないわけではない。
何時も帰りを待っていてくれた妻の出迎えがないのは今も、そしてこれからも言い知れぬ淋しさを伴ってじんわりと己に染み込むのだろう。
だがこれも己に貸せられた義務なのだ。
あの家を残しておいてくれた者への感謝と、帰ってこれたという意味と。
そして今いる家族のためにも。
「……そういえば今日は三つ子が先に帰っていたな…」
家族というワードに、ふと自分より先に仕事を終えてわきゃわきゃと城を飛び出していった息子達を思い出す。
しっかりしていない訳ではないが、まだまだ子供っぽさも抜けない我が子は出先から戻ってきてもまだ元気らしく、今日は何処かから聞いて来たレシピに挑戦するのだと張り切っていた。
市街地から路地を抜け、続々と葉の落ちてゆくプラタナスの並木を行き、ぽつりぽつりと立ち並んだ民家へと歩を進める。
人のいない通りは静かで、頬を撫でる風が冷たい。
何処か懐かしい感覚に顔を上げ、我が家が目に入ったその瞬間。
玄関に、
そして窓からもれる家の中に明かりが点いていることに
どくんと胸が鳴った。
三つ子がいるからだ、と分かっているはずなのに、切ないほどに胸がきゅっと締め付けられる感覚がする。
言い知れぬ優しい痛みが去来して止まない。
感傷に浸りながらの家路だったからか、この感覚の原因を考えてああそうだったと思い出すように今更1つの自覚と確信を得る。
明かりが点いている家に帰るのは久しぶりだった。
ほんの少しだけ早くなった歩調に、ドクドクと己の心臓の音が耳まで聞こえる。
小さな門を開けて、ひとつ息を整えてからそっと玄関に立つ。
手にした鍵を差し込もうとして、自分の指先が微かに震えているのに気付いた。
情けないと思いながらも震えは止まらない。
まるで夢を見ているかのようで、扉を開けた瞬間に幾度も見た家族が迎えてくれる幻と、誰もいない過去の現実とがごっちゃになって自分を蝕む。
そうだ、怖いのだ。
これが幻であることが。
もしかしてこれは夢で、今だに自分はあの深く冷たい闇の中なのではないかと頭の何処かで誰かが囁いた。
「いや、そんな事は…無い…。無いんだ…」
言い聞かせて、深く呼吸をする。
夜風に晒された冷たい扉に触れれば、ひんやりと伝わる温度。
扉を開けてもしも暗闇が広がったなら、きっと自分は壊れてしまうだろう。
これが夢で無いように、ただそう願いながらドアノブに手を掛ける。
ギィ、と音を立てて開いたそこから、ぶわりと柔らかな空気が駆け抜けた。
「あ、おかえり父上!」
顔を覗かせた剣士に、ふうわりと漂う夕餉の香り。
パタパタと走る音。何かを切る音。食器の音。家の中から生活の音がする。
しんと冷たく、誰もいない暗闇にへたり込む己が、すっと脇を通り抜けて消える。
知っている。
これは、人のいる温度だ。
ここは、人のいる空気だ。
あぁ 、
自分を待つひとがいる、の だ 。
何故だか安堵感と泣きたくなるような感覚に苛まれ大きく息を吸い込むと、温かな空気は吸い込んだ息から肺へ心臓へ全身へと回り、ゆっくりと内部に染み込んでいく。
あの当時とはなにもかもが違っているが、彼女が育み守り続けていた大切なものは確かに存在していて、そこは変わらずに自分を受け入れてくれるのだ。
「父上どうしたのー?」
「もう飯出来るよー。今日は力作なんだって!」
「手ぇ洗って、早く早く!腹減ったよ俺ー」
「……あぁ」
夢にまで見た現実。
二度と叶わないと思った未来。
君も長兄も此処には居ないが、またこの場所に帰ることが出来た。
「ただいま」
そうして、家に帰る。
玄関の扉が閉まるその瞬間、懐かしい妻の声が聞こえた気がした。
おかえりなさい、あなた。
幸 福 讃 歌