シロカン

ある船乗りの話


――ラクロアから来る真っ赤な鎧を付けた戦士？
ラクロア騎士団の一員っつう、ガタイの良い兄ちゃんだろ？
ああ、知ってるぜ。というか、お得意さんだナ。


フラッとやって来ては船に乗って色々な場所に乗ってくんだよ。
まぁ、ウチは何であろうとも何処へでも運ぶからナ。
ついでに乗せてってくれってなモンさ。
金の出も良いし、力もロクな乗組員よりあるし、腕っ節も強い。何より物事に動じねェ。
嵐が来ても平然と寝てやがるし、肝が据わってやがる。
それに水上のモンスターなんかが出た時は逆に世話になってンだよ。

最初は船の行き先聞いて、そこでいいかって呟いて乗ったンだよ。
印象強かったから何となく覚えてたンだが、次も似たような感じでな。
フラッと乗ってはどこぞで降りて、次に来るのは何時か聞いたり、何日後に迎えに来てくれとかな。
行き先の無い全くの風任せな旅ってな感じだナ。
足の向くまま、気の向くまま。
いいねぇ。

ああ…ただ、何か背負ってやがるなぁ、っていうのは感じたナ。
いや、悪いモンって意味じゃねェよ。
背負うっつうより…なんだ。アレだ。
そうだ。あれは探しモンをしてる奴の目だ。
それも明確なモンじゃねェ。漠然としたモンだな。
尤も、そういった奴ってのは大抵が背中にヤバい気配がしてな。一生帰ってこない人間も多いンだが。
アイツの場合は、背負ってるのは良いモンなんだよナ。
んで、スッキリしたツラで帰って来る時は、そりゃ良い風が吹いてるモンさ。
何かを貰って帰ってきてるのかもしんねェなァ。
穏やかな海にも似てらァな。


あン？よく分かるなって？
あたぼーよ。こちとら今までに山ほどの人間見てんだ。
人を見抜けなきゃ出来ねェ商売なのサ。


――ところでアンタは何処に行くんだい？
乗せてって欲しいんだろ？顔見りゃ分かるぜ。

――ムーンムーンの島？
なんだ、アンタもなのか。
ああ、今じゃ船で行けるぜ。
山々に囲まれた絶海の孤島・謎の島だったムーンムーンも、随分前に取り囲んでた山が１つ崩れて行き来が出来るようになったンだが、まだ何も無くて観光にもなんねェぞ？
――それでもいい？
ふぅん…あんなヘンピな場所に何度も行く事になるたァ、珍しい事もあるモンだな。
いいぜ、乗りな。
ああ、今日は風が気持ち良いな。絶好の航海日和だ。
 

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