シロカン

【2時45分の子守唄】




闇夜
僅かな星明かり
静寂。





前に居たところの傭兵の期限が切れ、今回は更新せずにまた新たな場所を捜す為に転々と地を回る。
裏情報によれば、今度はダバード辺りで何かあるらしい。


ダバードに行く途中、立ち寄った村で安宿を見付け、粗末なベッドに転がり込む。

ベッドだけの簡素な室内にそれだけ取って付けたような窓から青白い月明かりがうっすらと差し込んでくる。


「―…………♪………♪♪……」





眠る直前、意識もせず自然と口ずさむのは、遠い昔の子守唄。




ゆったりとした優しい音色のそれは、子供に聞かせる為のもので。





「♪…♪……―――………」







口ずさみ
此処で何時も、止まる。






まざまざと甦る記憶。

子供心に見えた景色と、聞こえてくる音。

しかしそれは、優しい母の声ではなく。

低い低い、テノール音。





頭の中を駆け巡るウタ。




それは




苦しいほど　穏やかで


泣きたいほど　優しくて。





記憶の中にある、これは―――







「……………違う」






吐き捨てるように呟き、瞼をきつく閉じる。






“これ”を唄っていたのは
“アイツ”じゃない。
 
 
 
 
 
 
 

 

（それが父であるはずがない。
だって彼は、俺にそんな事などしなかったのだから。）
 



―――

親父ことフォーミュラが大嫌いで、名前は絶対呼ばない派。
でも忘れようとしても時折思い出してたりして。

優しい記憶は、意外と残っているもの。

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